サラギY's Blog

サラリーマン・ギタリストYが音楽、楽器、エフェクタや機材のこと、果ては日常の戯れ言をとりとめもなくつらつらと

Wesのこと

少し前に書いた記事の続きです。

 

学生時代、Wes氏に傾倒しだしたサラギYは「Incredible Jazz Guitar」から入り、お小遣いの入手ペースで「Full House」と買い足していき、Wesの凄さというのが揺るぎない技術と知識に裏打ちされたものであることを確信していきます。

 

サラギYはWesに取り憑かれ、次々にアルバムを購入していった。「So Much Guitar」では、評論家のI野氏がライナーノーツでWesが19才の時にCクリスチャンを聞いてギターをマスターしたことを書いている。続いて超名作の「Smoking At The Half Note」を買う。評論家I波氏のライナーノーツにはニュースがなかった。この人物はレコード会社の資料を斜め読みしただけなんじゃないか。さらに「Guitar On The Go」を買うと、I野氏が曰く、「ウエスは19歳の時に故チャーリークリスチャンを聞いてギターが好きになり、ほとんど独学でギターをマスターし、ウエスのトレードマークであるオクターブ奏法、オクターブプレイを完成、これをもってジャズ界に躍り出た」。ふむふむ、やはりそうなんだね。Iソノの情報に感銘を受けた私をさらにひきつけたのが、「ジャズ批評」におけるT井氏の記事である。61ページの記述では、明らかにウェスが19歳で初めてアンプを買ったという事実が紹介されており、「このころからウェスは開眼の兆しを見せている。23歳前後には前人未到のオクターブ奏法を殆どマスターした」とある。それだけではない。日本のジャズ評論家の情報を総合すると、

 

・WesはHigh School卒業後すぐにラジオ工場に就職

・工場で働いたお金で、19歳で初めてギター、アンプを購入

・同じく19歳で結婚、5人の子持ちとなった

・Wesは昼間は家族を養うために工場で働き、退社後、ターフ・バーという地元のクラブで朝までギターを弾くという過酷な生活を送っていた

 ・その鬼のような鍛錬の結果、23歳にしてオクターブ奏法をものにした

 

ここまで聞いて、1950~60年代の黒人のアメリカ公民権運動の話などを変に知っていた自分は、完全に状況を呑み込んだ。黒人は白人と同じ蛇口から水を飲むことも許されない虐げられた過酷な状況に置かれていた。Wesも多かれ少なかれこの厳しい世相に晒されていたに違いない。Wesはこれほどの天才なのに、ギターを自ら働くまでは手にすることができず世に出るのが遅れたのだ。しかも、そのようなハンディの元、23歳にはあのオクターブ奏法を完成させていたとは!Wesは何と苦難の道を歩んでギターをマスターしたのか。

 

それに引き換え、小学生の時にギターを買い与えられた自分は6年も取り組んでもまだWesのコピーさえままならないのだ。思春期のわけわからん精神不安が、Wesに申し訳ない気持ちを妙に高揚させたのだった。本当に情けなくて目頭が熱くなったことも一度や二度ではない。恵まれている自分が不甲斐ないのだが、なぜかわからんがWesに申し訳ない、Wesが可哀想という気持ちも大きかった。

 

時はたち、Wesのコピーもある程度こなせるようになっても、Wesへの特別な思い入れは変わることはなかった。が、インターネットが普通に見られるようになりサラギYの勘違いとジャズ評論家のテキトウな取材や安易な記述が明らかとなる。サラギは、インターネットでWesの情報を発信する複数のサイトを発見し、社会人になり仕事で英語を日常的に使用する強みでどんどん読破していった。

 

すると、今まで得ていたイメージが全然違って、遅咲きジャズ・エリートのWesの人物像が浮かんできた。やはり、Wesの原文インタビューが複数残っていたことで、実像をつきつけられた。Wesの一家は音楽一家で、Wesは子供の頃からテノールギターを弾いていて、もちろん親御さんはギターを与えていたこと。それを弾く気を起こさなかったのは偏にWes自身の選択であったこと。特に、兄弟のうちピアニストのMonkは音楽的なリーダーであり、Wesに知見のすべてを授けていたこと。どんどん今までの誤解が解けていく。これなら譜面に弱くても天才に育っておかしくないわ。

 

当時のわれわれは、ジャズ評論家の爺らに吹きこまれていた。Wesが「私は譜面を読めない」と周囲に言っていたこと、WesがMilesにバンドに誘われた時に一人だけ音楽を正式に学習したことがないことを引け目に思って「私は(ColtraneやEvansのように)難しいことはとてもわからない」と言ったとかなんとかWesを貶めるようなゴシップ記事を。たとえば、Wesは譜面が読めないと周囲に言っていたが、これはあくまで”強くない”とうことで、むしろオーケストラと一緒にレコーディングするときに謙遜で言ったのではないか。そうならWesの性格とも相俟って腑に落ちる。本当に読めないなら、スタジオでもジミヘンのように本人の前に譜面台も置かれないはず。ジミヘンは証拠写真が複数残っているが、レコーディングの時はジミだけ本当に譜面台が置かれていない。潔いというかなんというか。

 

ジミヘンついでに言えば、日本の爺ロック評論家はジミヘンのことでも誤った人物像を日本のファンに植え付けていて、ジミヘンがある時「悪魔が俺にギターを弾かせている」といったことを事あるごとに伝えていたが、ジミはTVに出演した時に、どうしてそんなにギターが上手いのかと聞かれて「I'm NOT a good guitar player. I make a lot of mistakes.」と言っている。こんな人が「俺のギターは悪魔が弾かせてるんだぜへへへ」なんてことをいうわけがない。全く評論家という人種は。

 

たとえば、Wesはあるインタビューの中で「私はとても腕のいい溶接工だったんだよ。この国では腕の良い溶接工は給料がとてもいいのさ。もしギタリストになっていなければ、そのまま溶接工として一角の親方になったと思うよ」と述べている。じゃあ、生活費のためにジャズを演るということはなく、自分の探究心からだったんだとわかる。また、WesのDVDに収録されているベルギーのあるTV番組での打ち合わせの時に、Wesが他のメンバーに曲を教える時の説明の仕方を見ていると、音楽理論は完璧に把握していることがわかる(理論上の呼称technical termは知らないかも知れないが)。こうしていろいろとわかってくると、Wesが多くの録音で、曲の終わりやイントロでやたら理論に基づいた解釈でのチャレンジングすぎるプレイをするのも頷ける。Wesが譜面が読めないから本能だけで弾いているような誤解を与え続けた、爺評論家は考えを改めていただきたいものだ。

 

The Incredible Jazz Guitar Of Wes Montgomery

The Incredible Jazz Guitar Of Wes Montgomery

 

 

 

Smokin at the Half Note

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